商社からメーカーへの転身に成功したB社
当人も意識していなかった経営者の本音を聞き出しながら、最善の形で転身を成功に導いた事例です。
SITUATION ご依頼時の状況
太陽光発電の敷設販売を行うB社からは、株式上場を前に会社組織を立て直したい、というご相談をいただきました。2011年3月11日に起きた東日本大震災と福島第一原発の爆発は、多くの人に原子力エネルギーの恐ろしさを抱かせることになりました。その後、人々の目は代替エネルギーに向けられ、太陽光発電は空前のブームを迎えることになります。B社もその例外ではなく、急激に増える需要に会社が追い付いていないという状況にありました。
ブームを当て込んでの新規参入の業者が多い中、B社社長は「太陽光発電こそ、本当のエネルギー」と信じて地道な事業経営を行ってきた、業界では古参の人です。だからこそ現在のブームが一時的なもので、それが去ったあとを見据えての株式上場計画でした。上場を機に経営体制を見直し、職場改善を成し遂げたいという社長の思いもありました。
SOLUTION サポートの流れ
●追い風が去ったあとを見据えての組織作りに必要なもの
社長との面談を経て、私は成長を続ける会社づくりを大きな柱に据え
・自社分析と他社の動向の分析による問題点の抽出
・数珠つなぎの会社を目指すために次代を担う人を育成できる環境の整備
・ブームが去ったあとの関連事業の柱を設定
この3つのポイントを軸に、業務と組織の見直しに着手しました。
●商社からメーカーへの転換
B社は商品を海外から輸入し、代理販売を行う商社でした。ところがその品質にはばらつきがあり、長年にわたる経験を蓄積し、商品の特徴をよく知っているB社から見ると不満の残るものでした。また自社の工事部隊がいないために敷設工事は下請けに回しており、私から見ると同社のこれまでの知識と実績を十分活かせているとはいいがたい経営のあり方に思えました。B社の実力からすれば、単なる販売代理店に留まるべきではなく、自社製造から敷設まで一貫して行う方がふさわしいと考えました。商社からメーカーへの転身という大きな決断を、経営陣に求めたのです。将来的には自社工場を持つための第一歩として、ノウハウを持っている工場を買収することを提案しました。
また、自社による敷設工事をスタートしたことを広く知らせるために、工事の様子を物語形式でウェブサイトにアップしていくことにしたのです。失敗しながら山を刈り込んでいる写真から、仮設、敷設と、工事の過程を逐一報告していきます。そうすることで太陽光発電について詳しく具体的に知ってもらうだけでなく、B社の工事部隊の存在を広くアピールすることができるようになりました。海外から輸入し代理販売を行う商社から、ものづくりから敷設まで一貫して行うメーカーへと転身することで、自社ブランドを確立し、ブームが去ったあとも安定的な成長を確保できるようにしたのです。
●半ば無意識の「思い」を言葉にする
私が依頼を受けた段階では、B社は株式上場の準備を進めているところでした。ところが社長と面談を重ねるうち、本当に社長は上場にメリットを感じ、納得して進めているのだろうかという違和感を覚えたのです。イエスかノーかで聞けば、きっとイエスという答えが返ってくる。でも心からそうは思っていないはずだ。そう考えた私は「上場しなかったとしたら、どんな不都合が起こってくるでしょうか」と話を向けました。
上場のためには人員体制を整える必要がありました。さらには上場後も継続するための費用が必要です。そうしたデメリットを差し引いても、上場しなければならない必然性がB社にとってあるかどうか、いったん立ち止まって社長の本心を聞かなければと考えました。
社長からすれば、会社の知名度を上げ成長を続ける会社へと育成するためには、上場は当然のことと考えていたところに、上場しないという選択もありうることを提示したのです。それがきっかけとなって、社長自身が無意識のうちに感じていた「上場したくない」という思いを言語化することができたのでした。上場については従業員の多くがメリットを感じていないことも、聞き取りを通じて分かってきました。それならば上場しないという選択のもと、会社の方針を作っていくことを最終的に社長は決断したのです。
●数珠つなぎの組織を
もう一つ私がB社に対して行ったのは、人を育てる環境の整備でした。持続可能な組織を作るためには、これから先一緒に組織を担っていくメンバーの育成が不可欠です。
●方針を提示するのではなく、共に悩み、共に考えるコンサルタントとして
私はそれまでコンサルタントとして働きながら、自分自身の当たりの弱さをある種の弱点と考えていました。会社を率いて、これまで数々の荒波を乗り切って来た経営者に対して、そのやり方は間違っている、こうしなさい、と強く言うことができないのです。確かに数字上はこうなんだけど、そういう考え方もあるなあ、もう少しいろんな人から話を聞いてみよう…というのが、私が一貫して取ってきたやり方でした。
ところがB社の社長と面談を重ねるうち、自分のこの当たりの柔らかさゆえに社長が本心を打ち明け、周囲から理解してもらえない悩みを打ち明けることができるのだ、と気づきました。自分の弱点こそが強みであることに気づいたのが、B社での経験でした。